賛否をあつめる『いらすとや』のビジネスモデル
この記事を書いた人
1976年 静岡県生まれ。CEO、ブランドマネージャー、ディレクター、コピーライター、日曜エンジニアと5足のわらじで活動中。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会『ブランドマネージャー1級資格』保有者。
イラスト素材の代名詞的なwebサイトといえば『いらすとや』です。
いらすとやのイラストといえば、優しくかわいらしいタッチ。汎用性が極めて高い絵柄のおかげで、業種やシーンを問わず使いやすいことが特徴です。
そんな『いらすとや』ですが、その影響についてtwitterでこんな声があがっていました。
いらすとやさんが、使い勝手の良い絵柄のカットを超大量に無料で公開したせいか、
— たま、絵仕事🖋 (@hantutama) August 20, 2019
あるイラスト描きの先輩が運営する会社では、カット仕事が激減し、カットしか描けない人達を雇っていられなくなって、会社自体も畳もうかってこぼしてた。コワイなぁ。。 https://t.co/d0mQPAu84z
この他にも、ネット上では「(いらすとやが無料配布するせいで)イラストの価格交渉で足元を見られるようになった」とか、「(いらすとやが無料配布するせいで)イラストの多様性が失われている」といったニュアンスの意見が叫ばれています。
その中には、いらすとやがやっていることは市場破壊行為とさえ呼ぶ人もいて、ちょっと驚いてしまいました。
いらすとやは市場を破壊しているのか?
いらすとやの運営者が「単純な金儲け」のためにサイト運営しているとは思いませんが、しかし個人運営の素材サイトもこれだけの規模になるとビジネス面に注目せざるを得ません。
そのビジネスモデルですが、豊富なPV(トラフィック)を活用した広告パターンがメインだと思います。さらにキャラクターのライセンス収入だったり、商用イラストの制作収入を生み出すハイブリッドなビジネスモデルで、ビジネス的に不自然な部分は一つもありません。
いらすとやのイラストは無料ですが、ひとつひとつの素材に価値を設定しているというよりもサイト全体で価値を作っていると言えます。
広告収入が『いらすとや』の価値を示す指標であり、依頼をうけてイラストを描き、報酬を受け取って完結するパターンとは根本的にビジネスモデルが異なります。
結局は健全な市場競争の結果にすぎない
いらすとや否定派はビジネスモデルに噛みついているというよりも、「無料配布によってイラストの価値を下げている」という点について強く批判しています。
①便利なイラストがタダで手に入る ⇒ ②イラストの商品価値が下がる ⇒ ③タダで描けと言われる ⇒ ③もう僕たちは食べていけないと。という言い分ですね。
うーん。
否定派のイラストが売れない&選ばれないのは、イラストの商品価値が下がったのではなく、単に「ユーザーのニーズ」が見えていないだけだと思いますけどね・・。
市場破壊ではなく、健全な市場競争でのマーケティングの差でしょう。
いらすとやはユーザーのニーズに応え、対価を得ている
いらすとやのイラストが爆発的に広まっているのは、お金をかけずに、資料にイラストを添えたいというユーザーニーズに応えた成果です。
運営者はユーザーニーズに応え、広告収入という対価を得ています。
webサイト分析ツールのSimilarWebが算出した「いらすとやのPV」は約2,000万/月です。収益性を低めに見積もって【0.2円/PV】だと仮定しても、広告収入は400万/月は超えるでしょう。(あくまで勝手な予測です)
素材1点あたりの収益性で見ればそこらへんのイラストレーターよりもケタ違いに高いはずですが、それでもイラストの商品価値を下げていると言うのでしょうか?
誰に向けて多様性を叫んでいるのか
「イラストの多様性が失われている」といった批判についても、素直にうなずけません。
いらすとやの素材を嬉々として使っているユーザー層を思い浮かべましょう。彼らが望んでいるのは、手っ取り早く、かわいいイラストを、タダで使うことです。
いままでの彼らは、玉石混合のイラスト集や星の数ほどの自称イラストレーターの中から、自分が使いたい素材や発注先を探してきました。その時間と労力を楽しんでいたと思いますか?
その答えが、世間のいらすとや一択現象だと思います。
いらすとやは先の条件を満たしつつ、品質が安定しているから悩まなくていい。彼らにとって「これで充分」なのです。多様性というのはピースフルな言葉ですが、それをユーザーが望んでいるかどうかは別の問題だと考えましょう。
辛辣なことをいえば、ユーザーから支持されているサービスに対して、「こんなことされちゃうと廃業する人が増えて、多様性が・・」みたいなことを言うのって、負け犬の遠吠えにしか聞こえないし、ちょっとダサいと思いますね。
イラストレーターの未来と、web屋のこと
「いらすとやのせいで仕事がなくなった」と愚痴をこぼすよりも、いらすとやがまだ満たせていないニーズや、あるいは別のターゲットに目を向けて、その人ならではの価値を磨いていったほうが建設的で、結果的に多様性も守っていけると思います。
しかも、イラストが無料で使えるようになるということは「イラストを使った広告、販促物」がより身近なものになるということ。
これはまさに破壊からの市場創造(イノベーション)です。これをポジティブに考えるイラストレーターが生き残っていくような気がします。
webデザイン業界にも同じ風潮が存在する
なぜここまで「いらすとや問題」を熱く語ったかといえば、webデザインの業界も同じだから。
かつてwebサイトといえば、専門技術を学んだwebデザイナーだけが作り出せるものでしたが、この10年〜15年間で、『見た目のよいwebサイトを誰でも簡単に作れる系のwebサービス』が次々と登場しました。
ブログ、SNS、スマホの画像加工アプリが普及するたびに、webデザイナーという職業はなくなると騒がれてきました。
その結果、webデザイナーは仕事を失ったでしょうか。
もちろん市場から去っていった人もいます。しかし淘汰されたのは「レベルの低い自称デザイナーたち」だけです。腕に覚えのあるデザイナーは益々活躍しているし、変わりゆくニーズを敏感にキャッチしながら、柔軟な変化を遂げていると思います。
僕らはこの状況を歓迎しています。
無料サービスを使ってwebマーケティングに取り組みはじめた企業さんが、「もっと本腰を入れて頑張りたい」と言って、ステップアップの相談にきてくれることも増えました。こういう時代こそ、僕らのデザインやノウハウが今までよりも高く売れるというものです。