製造業がECで直販をはじめる前に読んでほしい話
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1976年 静岡県生まれ。CEO、ブランドマネージャー、ディレクター、コピーライター、日曜エンジニアと5足のわらじで活動中。一般社団法人ブランドマネージャー認定協会『ブランドマネージャー1級資格』保有者。
「いままで僕らは『価値を売る』ということが、どうしても受け入れられなかったんです」
あるクライアントの社長さんは僕に向かってそう言いました。
このクライアントは明治時代から製造業を営んできました。ある特定の素材に対する加工に関しては、世界に誇れるスーパーな技術をもった企業です。
彼らはこれまで、持ち前の技術をもって高品質な製品を産み出し、日本のみならず世界中の人々に製品を届けてきました。
しかし平成不況とデフレ進行によって、これまで流通を担ってきた卸業者や販売店が縮小・廃業に追い込まれていくなか、ビジネスの活路をECによる直販に求めたのです。
とりあえず楽天市場に店を構えましたが、何ヵ月たっても商品は売れませんでした。いよいよ何とかしなければということで、僕たちに声がかかりました。
いろんな話を聞いていくうちに、僕はその原因が『プロダクト・アウト思考』にあるように感じました。
彼らの作り出す製品は極めて高品質ですが、顧客のどんなニーズを解消するのか?という一点において、顧客とのコミュニケーションが不足している気がしたのです。
それを指摘すると、社長さんは大きくうなずき、冒頭の言葉を発したのです。
付加価値を支えるのは品質だ
みなさんご存じのように、日本のものづくり力は世界トップレベルです。職人たちは『いいもの』をつくっているプライドを持ち、その情熱で日本の高度成長期を支えてきました。
そんな彼らにとって、製品の『品質』ではなく『付加価値』で売っていくということは、自分たちの技術力が評価されていないと暗に認めるようなもので、マーケティング理論的には理解できても、実際のところ前向きに考えられなかったようです。
しかし、僕は付加価値で勝負できるのは彼らのように圧倒的な技術力をもったメーカーの特権だと思っています。
技術と経験があるからこそ、多様化する顧客のニーズを解決することができるのです。ニーズが解決されても、製品の基本的な品質、つまり使い勝手や耐久性、安全性といった要素が欠落しては顧客満足に繋がることはありません。
このクライアントは、顧客とのコミュニケーションをとり、顧客の悩みや不安に触れることで、まだまだ成長することが出来るはずです。